相殺(そうさい)とは?
相殺とは、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときに、各債務者がその対当額について債務を免れることができる法的手段です。
民法第505条に規定されている相殺は、お互いの債権と債務を清算することで、わざわざお金のやり取りをしなくても債権債務関係を簡易に解消できる便利な制度です。債務整理においても重要な概念となり、特に過払い金請求や任意整理の場面でよく問題となります。
相殺の基本概念
相殺は「債権と債務の相互清算」とも言えるもので、わざわざお金を支払ったり受け取ったりする手間を省くことができます。
例えば、AさんがBさんに10万円の貸金債権を持っていて、同時にBさんもAさんに8万円の貸金債権を持っている場合、相殺によりAさんの債権は2万円に、Bさんの債権は0円になります。
定義 | 同一の者に対する債権と債務を重なる金額の範囲で消滅させること |
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法的根拠 | 民法第505条 |
主な効果 | 相殺の意思表示をした時点で、対当額において債権債務が消滅する |
相殺の遡及効 | 相殺の効果は相殺適状(双方の債務が弁済期にある状態)になった時点まで遡る |
この表は相殺の基本的な概念を示しています。相殺は民法に規定された法的手段であり、債権債務関係をシンプルに解消する効果があります。
相殺の要件
相殺が成立するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。すべての債権債務関係で相殺ができるわけではありませんので注意が必要です。
同種の目的 | 通常は金銭債権同士であること(お金とモノなど異なる種類の債権債務は相殺できない) |
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債務の弁済期 | 双方の債務が弁済期にあること(まだ返済期限が来ていない債務は原則として相殺できない) |
対当額の存在 | 相殺可能な共通の金額が存在すること(債権額が異なる場合は少ない方の金額まで相殺可能) |
相殺の意思表示 | 当事者の一方が相手方に対して相殺の意思を表示すること |
この表は相殺が成立するための主な要件を示しています。これらの要件を満たさない場合、相殺は認められないことがあります。
相殺の具体例
債務整理や過払い金請求において、相殺が問題となる具体的な例をいくつか紹介します。
消費者金融との相殺 | 過払い金が発生している場合に、同じ消費者金融への現在の残債務と相殺する |
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クレジットカードの相殺 | 過払い金が発生したカードと残債務のある別のカード間での相殺(同一会社の場合) |
保証会社との相殺 | 過払い金債権と保証会社の事前求償権との相殺 |
銀行取引での相殺 | 預金債権と貸付債権の相殺(債務者の預金と借入金の相殺) |
この表は債務整理でよく見られる相殺の具体例です。特に過払い金請求では、過払い金と現在の債務との相殺が重要なポイントになります。
相殺のメリット
相殺には様々なメリットがあります。債務整理を検討する際にも、相殺のメリットを理解しておくことが重要です。
- 債権債務関係の簡易・迅速な解消(お互いに支払いの手間が省ける)
- 相互の債権回収リスクの軽減(相手の資力不足や破産などのリスクを回避できる)
- 取引コストの削減(振込手数料などの支払いコストが不要になる)
- 公平な決済の実現(双方の債権を公平に扱える)
- 担保的機能(相殺権は一種の担保としての機能を果たす)
債務整理においては、相殺によって債務の一部や全部を消滅させられる可能性があります。特に過払い金がある場合は、現在の債務と相殺することで債務負担を軽減できることがあります。
相殺と債務整理の関係
債務整理の各手続きにおいて、相殺はさまざまな形で問題となります。債務整理を検討する際には、相殺の可能性についても考慮する必要があります。
過払い金請求 | 過払い金債権と残債務の相殺が可能(同一貸金業者の場合) |
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任意整理 | 債権者が相殺を主張し、和解交渉や債務減額に影響する可能性がある |
個人再生 | 再生債権と債務者の債権との相殺が認められる場合がある |
自己破産 | 破産債権と破産財団所属財産に関する債務の相殺が問題となる |
この表は債務整理の各手続きにおける相殺の位置づけを示しています。債務整理の方法によって相殺の取扱いが異なる点に注意が必要です。
相殺に関する注意点
相殺を行う際には、いくつかの重要な注意点があります。特に債務整理を検討している方は、以下の点に注意しましょう。
相殺禁止の特約 | 契約書や約款で相殺が禁止されている場合があるので確認が必要 |
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法定相殺と契約相殺 | 法律による相殺(法定相殺)と契約による相殺(契約相殺)の区別が必要 |
相殺の時効 | 相殺適状にある債権の消滅時効に注意(時効消滅した債権は原則相殺できない) |
相殺の遡及効 | 相殺の効果は相殺適状時に遡って生じるため、利息計算などに影響する |
相殺の証明 | 相殺の意思表示を行ったことの証明が後々必要になる場合がある |
この表は相殺を行う際の主な注意点です。特に債務整理においては、これらの点を見落とすと不利益を被る可能性があります。
相殺が制限される場合
法律上、相殺が制限される場合があります。これらの制限は、債権者間の公平や債務者の生活保障などの観点から設けられています。
不法行為債権 | 故意の不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺は不可 |
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差押禁止債権 | 差押えが禁止されている債権(給料の一部など)を受働債権とする相殺は制限される |
預金債権 | 預金債権に対する差押えがあった後の相殺には制限がある |
破産手続における制限 | 破産手続開始後に債権を取得して行う相殺や、債務者の破産を知って債権を取得して行う相殺は禁止 |
この表は相殺が法律上制限される主なケースを示しています。債務整理、特に破産手続では、これらの制限が重要な意味を持ちます。
相殺についてのよくある質問
過払い金債権と現在の借入残債務は、同一の貸金業者との間で発生したものであれば、原則として相殺することが可能です。
例えば、Aという消費者金融で50万円の過払い金が発生していて、同じAという消費者金融に30万円の借入残債務がある場合、相殺により過払い金債権は20万円に、借入残債務は0円になります。
ただし、過払い金債権が時効消滅している場合や、既に債権譲渡されている場合は相殺できないことがあります。
また、別会社との債務の場合は原則として相殺できませんので、専門家への相談をおすすめします。
相殺は当事者の一方から相手方に対する意思表示のみで効力が生じ、双方の合意は必要ありません。
つまり、債権者でも債務者でも、相殺の要件を満たしていれば一方的に相殺の意思表示をすることで相殺の効果が生じます。
ただし、相殺の要件(同種の債務であること、双方の債務が弁済期にあることなど)を満たしている必要があります。
なお、契約で相殺が禁止されている場合や、法律で相殺が制限されている場合は、一方的な意思表示だけでは相殺できないことがありますので注意が必要です。
破産手続開始後でも、一定の要件を満たす場合には相殺が可能です。
破産法第67条では、破産債権者が破産手続開始時に債務者に対して債務を負担している場合は、破産手続によらずに相殺することができると規定されています。
ただし、破産法では相殺権の行使に制限が設けられており、破産手続開始後に債権を取得して相殺する場合や、債務者の支払不能を知って債権を取得して相殺する場合などは、相殺が禁止されます。
破産手続における相殺の可否については、破産管財人や弁護士・司法書士に確認することが重要です。
過払い金債権が時効消滅している場合、原則として相殺することはできません。
過払い金の返還請求権は、最後の取引から10年間(改正民法施行前の債権は旧法適用で過払い発生から10年)で時効消滅します。
ただし、相殺の意思表示を行う前に時効の援用がなされていなければ、時効期間が経過していても相殺できる可能性があります。
時効と相殺の関係は複雑なため、専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
相殺は、お互いに債権と債務を持つ関係において、その債権債務を簡易に清算できる便利な制度です。民法第505条に規定されており、当事者の一方からの意思表示によって効力が生じます。
債務整理においては、特に過払い金請求や任意整理の場面で、相殺が重要な役割を果たします。過払い金と現在の借入残債務の相殺により、実質的な債務の減額や消滅が可能となることがあります。
ただし、相殺には様々な法的要件や制限があります。同種の債務であること、双方の債務が弁済期にあることなどの要件を満たす必要があり、また不法行為債権や差押禁止債権などでは相殺が制限されます。
特に破産手続においては、相殺権の行使に特別な規定があります。破産手続開始後の相殺については、破産法による制限を十分に理解する必要があります。
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