自己破産で保険が解約になる条件と回避方法

自己破産は、借金の返済をすべて免除してもらう手続きです。裁判所の調査を受けたうえで許可をもらう必要がありますが、借金の苦しみから解放される効果的な手段だといえます。しかし、何もせずに借金の返済義務だけを免除してもらえるわけではありません。

自己破産は返済能力がない場合にのみ認められるため、自宅や車などの財産があれば没収されてしまいます。没収された財産は売却するなどしてお金に換え、貸金業者などの債権者へ分配されるのです。このため、「自己破産をすると財産はすべて没収されるのでは」と誤解している方も少なくありません。

特にわかりにくいのが、「保険」です。保険は形のない商品であり、財産とみなされるのか判断しにくいものです。当事務所にも、「自己破産すると保険は解約される?」「子どものためにずっとかけてきた学資保険は没収されたくない」「万が一に備えて保険は残したい」など、保険に関するご相談を多くいただいております。

今回は、そんな不安を解消するべく、自己破産で保険が解約される条件や、解約の回避方法についてチェックしていきましょう。

自己破産すると保険(財産)はどうなるのか

自己破産すると、破産者は財産を処分してお金に換え、可能な限り債権者に返済することが求められます。手元に多くの財産を残したままだと「破産しなくても返済できるはずだ」と判断されるため、自己破産は認められません。

生活必需品やある程度の現金など、最低限必要な財産以外は没収されるのが原則です。これは、保険についても例外ではありません。保険は売却できる商品ではないものの、種類によっては「解約返戻金」が発生します。

解約返戻金は、保険を解約したときに契約者の手元に戻ってくるお金のことで、契約内容によっては何十万円という金額になるケースもあります。これは十分に財産と呼べるものなので、債権者へ分配するために解約が必要です。

ただし、保険がすべて没収対象になるわけではありません。保険は「積み立て式」と「かけ捨て式」に分かれますが、解約しなければならないのは返戻金が発生する積み立て式のみです。かけ捨て式は保険料を安くするかわりに解約返戻金がほとんど発生しないため、自己破産しても解約する必要がありません。

また、解約しなければならない保険は、「誰に解約返戻金が戻ってくるか」という点でも変わります。解約返戻金は契約者に戻ってくるため、破産者が契約者であれば解約が必要です。なお、保険金の受取人が破産者になっている場合も注意しましょう。破産者が保険金を受け取れば、財産として没収される可能性があります。

ただし、破産者が受取人の保険を没収対象とするか否かは、意見が分かれる部分です。裁判所や裁判官、破産管財人によって扱いが異なるので、一概には言えません。破産者が契約者の保険以外については、没収されるかどうか判断がむずかしいため、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

保険の解約を回避する方法

保険解約を回避するには

積み立て式の保険は、自己破産すると基本的に解約しなければなりません。しかし、場合によっては解約せず、手元に残すこともできます。「自由財産の拡張」「契約者貸し付け制度」「介入制度」という3つの回避方法があるので、それぞれ詳しく確認してみましょう。

自由財産の拡張

自己破産すると借金の返済がすべて免除されますが、貸したお金を返してもらえない債権者にとっては大きな損です。このため、破産者に財産がある場合はその大部分を没収してお金に換え、できる限り債権者に返済しければ自己破産は認められません。

ただ、財産をすべて没収されれば、破産者は生活できなくなってしまいます。生活の再建ができなければ自己破産の意味がないので、自己破産後も生活していけるように必要最低限の財産は残してもらえます。このとき手元に残してもらえるのが、「自由財産」と呼ばれるものです。

この自由財産を拡張することで、保険の解約を避けられる可能性があります。自由財産の拡張とは、本来なら没収される予定だった財産を自由財産として認めてもらう制度のことです。もちろん、希望すればすべてを自由財産にしてもらえるわけではありません。

裁判所ごとに基準は異なりますが、没収される予定の財産を項目ごとに分け、価値が20万未満のものだけ自由財産として認められることが多いです。ただし、拡張をしたい項目とすでにある自由財産を足したとき、総額が99万をこえると没収されるので注意しましょう。

保険の解約返戻金についても、戻ってくる金額が20万未満であれば自由財産として認められ、解約せずに済む可能性が高いです。ただし、何件もの保険を契約している場合は、すべての解約返戻金を合計して20万未満でなければなりません。

たとえば、Aという保険には解約返戻金が10万円あり、Bの保険の返戻金は15万円だったとします。それぞれの返戻金で見ると20万円以下ですが、合計すると25万円になってしまいます。

この場合、保険という大きな項目で20万円をこえたと判断され、自由財産とは認められないため両方とも解約しなければなりません。このようなケースを避けるためにも、契約中の保険にそれぞれ解約返戻金がいくらあるのか、破産手続きを始める前にすべて確認しておきましょう。

合計で20万円をこえる場合は、どれかを解約して返戻金額を抑えたり、貸し付け制度や介入権制度などほかの回避方法を検討したりする必要があります。

契約者貸付制度

契約者貸し付けとは、解約返戻金を担保として借り入れができる制度のことです。貸し付けを利用している場合、解約返戻金はもともとの返戻金額から、借り入れ額を差し引いたものになります。その結果、価値が20万円未満であれば、自由財産の拡張をしたうえで没収対象外にすることが可能です。

たとえば、契約中の保険に100万円の解約返戻金があるとします。貸し付け制度を利用して90万円を借り入れると、返戻金の価値は差し引き10万円です。価値が20万円未満となり、自由財産に含まれるため解約する必要はありません。

このように、もともとの解約返戻金では没収対象となるものの、貸し付け制度をうまく活用すると没収を回避できる場合もあるのです。ただし、保険の契約者貸し付けは破産手続きが始まると利用できません。このため、借り入れは裁判所に自己破産を申し立てる前に済ませておきましょう。

また、契約者貸し付け制度で借りたお金にも注意が必要です。本来、現金は99万円以下しか自由財産として認められておらず、こえた分は没収されてしまいます。このため、貸し付けで借りたお金が多い場合は、破産手続きに入るまでに生活費や手続き費用にあてて使っておきましょう。

自由財産の合計額を99万円以下にしておけば没収されないため、損をする心配がありません。

介入権制度

本来、20万円をこえる解約返戻金は債権者への分配にあてられるため、解約したうえで没収されます。しかし、保険の受取人が、契約者である破産者と同意のうえで破産管財人へ解約返戻金相当額を支払った場合、破産者が保険を解約する必要はありません。

これが介入権制度というもので、保険の解約を回避するための方法として2010年に保険法で定められました。ただし、介入権制度は受取人であれば誰でも利用できるわけではありません。受取人が契約者(破産者)とは別人であること、契約者の親族や被保険者本人であることなどの条件があります。

また、介入権制度の利用にはタイムリミットもあるため注意しなければなりません。没収できる解約返戻金があるとわかると、破産管財人は保険会社に対して解除通知を送ります。自己破産をするにあたり、解約返戻金を没収するために保険を解約する旨を連絡するのです。

解除通知が保険会社に届いた日から1カ月経過すると保険が解約されてしまうため、解約返戻金相当額の支払いは1カ月以内におこなう必要があります。親族や被保険者にきちんと期限を伝え、計画的な支払いをお願いしましょう。

自己破産前に保険の解約返戻金をもらう

保険は、被保険者に何かあったときに保険金を受け取り、思わぬ出費などに備えるものです。しかし、自己破産して保険が解約されれば、被保険者に何かあっても保険金を受け取ることはできません。自己破産後に保険を契約し直すにしても、年齢が上がれば保険料が高くなりますし、健康状態により十分な保障をつけられない可能性もあります。

このような事態に備えるためにも、自分の手元に少しでも多く現金を残す方法を考えましょう。自己破産して解約返戻金が没収されるのを待つのではなく、破産手続き前にあえて自分で解約し、返戻金をすべて受け取るというのも選択肢のひとつです。

手続き前に解約返戻金を受け取っておけば、手元に残った金額によっては必要最低限の財産として認められ、没収を回避できる可能性もあります。解約されたうえに返戻金まで没収されることに比べればメリットが大きいので、必要最低限の財産として認めてもらう方法を知っておきましょう。

解約返戻金の没収を回避するには

自己破産では、必要最低限の財産として「99万円」がひとつの基準になっています。解約返戻金+現金+預金などの自由財産=99万円以下であれば、自己破産しても没収される可能性は低いです。もし、財産の合計額が99万円をこえた場合、オーバーした分だけが没収される財産となります。

たとえば、保険の解約返戻金が130万円、現金が20万円あったとしましょう。この場合、現金は合計で150万円になり、150万円-99万円= 51万円が没収される財産となります。何も対策しないまま自己破産手続きを始めれば、51万円分の財産をただ失ってしまうだけです。

それはもったいないので、没収を回避する方法を考える必要があります。たとえば、自己破産する前に解約返戻金を受け取り、生活費や破産手続きの費用など、生活を送るうえで必要な費用として使いましょう。

先ほどと同様に解約返戻金が130万円、現金が20万円あった場合、家賃・学費・破産者名義の滞納した税金・破産手続きの費用などに合計100万円使ったとします。そうすると手元には50万円が残り、財産の合計が99万円以下となるため没収されることはありません。

現金化した解約返戻金の使い道には注意が必要

自己破産手続きが始まると、没収対象となる保険の管理は基本的に破産管財人がおこないます。破産者が自由に保険を解約したり、解約返戻金を使ったりすることはできません。没収を回避したいなら、破産手続き前に解約返戻金を受け取って使い、残った返戻金を必要最低限の財産として認めてもらう必要があります。

ただし、受け取った解約返戻金は好きなように使えるわけではありません。ギャンブルや趣味など、生活とはあまり関係のないものにお金を使っていると、生活に必要な費用とは認められにくいです。そうなると、使った金額分を裁判所に返還しなければならず、より経済的に苦しくなってしまいます。

また、受け取った解約返戻金で「偏頗弁済」をした場合も、生活に必要な費用とは認められません。偏頗弁済とは、複数ある借金のうち、特定の貸金業者にだけ返済をすることです。そもそも自己破産では、債権者をすべて平等に扱わなければならないという「債権者平等の原則」に従う必要があります。

偏頗弁済は、この原則に反して特定の債権者にだけ利益を与えてしまうため、自己破産では認められていないのです。なお、債権者には貸金業者や金融機関はもちろん、友人などの個人も含まれます。

人間関係を気にして個人からの借金だけは何とか返済しようとする方も多いですが、偏頗弁済に該当するため注意しなければなりません。解約返戻金を偏頗弁済に使うと、その金額を裁判所に返還しなければならないうえに、借金の返済義務を免除する「免責」が認められなくなる恐れもあります。

このように、使ってしまったお金の返還を求められたり、自己破産に失敗したりする危険性があるため、解約返戻金の使い道には十分に注意しなければなりません。どのように使えば問題ないのか知りたい場合は、司法書士などの専門家に相談すると安心です。

自己破産前にやってはいけない手続き

自己破産するとき、手続きが始まる直前に名義人の変更をしてはいけません。保険の場合、契約者が破産者になっていると、破産者の財産として解約や没収の対象になってしまいます。このため、解約を回避しようとして、自己破産する前に契約者変更を考える方も多いです。

しかし、自己破産の直前に名義人を変更すると、裁判所はすぐに「没収を避けるために財産を隠したのでは」と気づきます。財産隠しは悪質な詐害行為とみなされ、発覚すれば自己破産が認められないので注意しなければなりません。

なお、契約者だけでなく、破産者が受取人になっている保険も同様です。まとまった現金が手に入る保険金は、受取人にとって大きな財産になります。このため、破産者が受取人の保険も、解約・没収の対象になることが多いです。もうすぐ保険金を受け取れる予定がある場合、受取人を破産者から変更すれば財産隠しを疑われかねません。

自己破産は、返済義務を免除する「免責」が適切かどうか、裁判所が慎重に調査したうえで決定するものです。手続きを進めても、肝心の免責が認められないと借金は0になりません。深く考えずに保険の名義人を変更すると自己破産を失敗する恐れがあるため、確実に免責を認めてもらいたいなら専門家へ相談するのが一番です。

自己破産後、保険に加入できるか

自己破産しても、その後新しい保険に加入できなくなるという心配はありません。借金やクレジットカードの新規申し込みは断られることが多いですが、これはお金を借りて返済するという形態のサービスだからです。

貸金業者やクレジットカード会社は、貸したお金が回収不能になることを警戒します。このため、自己破産した方は返済能力を疑われ、新規申し込みを断られるケースが珍しくありません。この点、保険はお金を借りるわけではなく、保険料を支払って何かあったときの備えを得る商品です。

このため、自己破産したからといって、保険に加入できなくなることはありません。ただし、保険に加入する際は、基本的に健康状態のチェックがあります。保険によっては、年齢や持病の問題などで加入できない可能性もあるので注意しましょう。

滞納している国民健康保険料は自己破産できない

裁判所から自己破産が認められると、破産者が負っている借金の返済義務は免除されます。ただし、免除されるのは借金などの債務であり、国民健康保険料については免責対象になりません。これまで滞納していた国民健康保険料があれば、自己破産した後にしっかり支払う必要があります。

また、自己破産後に滞納分を支払ったとしても、その後の国民健康保険料は免除されないため、支払いを続けなければなりません。なぜ支払いが必要なのかというと、国民健康保険料や税金などが国・自治体を運営するための重要な財源になっているためです。

公共の利益を守るために必要なお金であり、支払うことが国民の義務になっているため、自己破産したからといって免除対象にはなりません。滞納を続ければ、延滞金が発生したり財産を差し押さえられたりするなど、ペナルティを科される恐れがあります。

ただ、自己破産する方の場合、国民健康保険料を支払えるほどの余裕がないことも多いです。どうしても支払えないときは、市役所などに相談してみましょう。事情がわかれば、分割支払いや支払い期間の延長などを認めてもらえる可能性もあります。条件を満たせば減額や減免などの支援制度を利用できるケースもあるため、早めに自治体へ問い合わせましょう。

自己破産に強い杉山事務所へ相談

借金で苦しむ方にとって、返済義務を免除してもらえる自己破産は頼りになる方法です。その一方で、非常に複雑な手続きや膨大な時間、裁判所・債権者とのやり取りなど、さまざまな労力がかかります。保険についても、解約回避のやり方を間違えると免責が認められず、自己破産そのものを失敗してしまうかもしれません。

このように、自己破産にはさまざまな注意点があるため、破産者が個人で手続きを進めるのは非常にむずかしいです。少しでも早く、確実に自己破産したいなら、債務整理に強い杉山事務所へお任せください。

杉山事務所は、全国各地にある事務所には月に3000件もの相談が寄せられ、過払い金の返還総額も月に5億円に迫るほど実績豊富な司法書士事務所です。豊富な経験と知識をいかし、相談者様のお悩みを解決する最善の方法をご提案いたします。

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