分別の利益(ぶんべつのりえき)とは?
分別の利益とは、主債務者に代わって複数の保証人が返済を行う場合、保証人は債務を保証人の人数で按分した金額だけを支払えばよいとする権利のことです。民法第427条および第456条を根拠としたもので、保証人には認められている一方、連帯保証人には認められていない権利です。
債務整理を検討している方や、他者の保証人になる際に知っておくべき重要な権利であり、負担すべき金額を大きく変える可能性があります。近年では日本学生支援機構(JASSO)の奨学金返済に関する裁判でも注目されました。
■もくじ
分別の利益の基本概念
定義 | 複数の保証人がいる場合、各保証人は債務を保証人の人数で割った金額だけを支払えばよいという権利 |
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法的根拠 | 民法第427条(分割債権及び分割債務)と第456条(保証人の要件) |
権利の所有者 | 保証人(連帯保証人や連帯債務者には認められない) |
行使方法 | 債権者から全額請求された場合に「分別の利益」を主張する(特別な手続きは不要) |
分別の利益は債務の保証人に対して法律で認められた権利であり、複数の保証人がいる場合にそれぞれの負担を軽減する効果があります。裁判例によれば、特別な手続きを行わなくても、保証人は当然に分別の利益を有するとされています。
分別の利益の具体例
ケース | 主債務者が借入金600万円を返済不能になったケース |
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保証人 | 夫と妻の父親の2名 |
結果 | 各保証人は300万円ずつの返済義務を負う |
債権者請求 | 債権者が一人の保証人に600万円全額を請求しても、保証人は分別の利益を主張できる |
例えば、妻が主債務者として600万円を借り入れ、夫と妻の父親の2名が保証人となった場合を考えてみましょう。妻が返済不能になると、債権者は保証人に返済を求めることになりますが、分別の利益により各保証人の返済義務は300万円ずつになります。
仮に債権者が夫に600万円全額の返済を求めた場合、夫は分別の利益を主張して「残りの300万円は妻の父親に請求してほしい」と主張することができるのです。
分別の利益が認められないケース
連帯保証人の場合 | 主債務者と同等の返済義務を負うため、分別の利益は認められない |
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連帯債務者の場合 | 主債務者と同一の立場であり、分別の利益は認められない |
保証契約で明示的に排除されている場合 | 契約内容で分別の利益を排除する特約がある場合は適用されない |
分別の利益が認められないケースとして、連帯保証人と連帯債務者の2つが代表的です。連帯保証人は主債務者と同等の返済義務を負うため、複数の連帯保証人がいても各人が全額の返済義務を負います。
例えば、妻が主債務者として600万円を借り入れ、夫と妻の父親が連帯保証人となった場合、債権者は夫にも父親にも600万円全額の返済を求めることができます。ただし、どちらかが全額を返済すれば、他方の返済義務は消滅します。
保証人と連帯保証人の権利の違い
権利の種類 | 保証人 | 連帯保証人 |
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分別の利益 | あり(保証人の数で割った金額のみ支払い義務がある) | なし(全額の支払い義務がある) |
催告の抗弁権 | あり(まず主債務者に請求するよう求められる) | なし(主債務者と同様に請求される) |
検索の抗弁権 | あり(まず主債務者の財産を差し押さえるよう求められる) | なし(主債務者と同様に差し押さえられる) |
保証人と連帯保証人では、上記の3つの権利において大きな違いがあります。これらの権利は保証人を保護するためのものですが、連帯保証人にはこれらの権利が認められていません。そのため、連帯保証人は主債務者とほぼ同等の厳しい立場に置かれることになります。
特に債務整理を検討している方や、保証人・連帯保証人になることを考えている方は、これらの違いを十分に理解しておくことが重要です。
分別の利益に関する法的根拠
- 民法第427条(分割債権及び分割債務):数人の債権者・債務者がある場合、別段の意思表示がなければ各人が等しい割合で権利を有し義務を負う
- 民法第456条(保証人の要件):第427条の規定が保証人にも適用されることを示している
- 民法第452条(催告の抗弁):債権者はまず主債務者に催告すべきことを定めている
- 民法第453条(検索の抗弁):債権者はまず主債務者の財産を差し押さえるべきことを定めている
- 民法第458条(連帯保証の場合の特則):連帯保証人には上記の権利が認められないことを示している
分別の利益は民法上明確に定められた権利であり、保証人が債務を分割して負担する根拠となっています。これらの法的根拠を理解することで、保証人となる際のリスクや責任の範囲を正確に把握することができます。
奨学金返済をめぐる裁判例
裁判例 | 日本学生支援機構(JASSO)による奨学金回収をめぐる裁判(2022年5月19日 札幌高裁判決) |
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争点 |
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判決内容 | 保証人が分別の利益を超えて支払った金額はJASSOの不当利得と認定 |
判決の影響 | 分別の利益は保証人が特別な手続きなく当然に有する権利であることが確認された |
この裁判では、JASSOが奨学金の保証人に対して全額を請求し、保証人が支払っていた事例について争われました。札幌高裁は、分別の利益は保証人が主張しなくても当然に発生する権利であるとして、保証人が本来の負担額を超えて支払った金額はJASSOの不当利得であると認定しました。
この判決により、分別の利益を知らずに全額を支払ってしまった保証人も返金を求められる可能性が開かれました。債務の保証人となっている方は、自分の負担すべき金額について正確に把握しておくことが重要です。
分別の利益についてのよくある質問
特別な手続きは必要ありません。札幌高裁の判決でも確認されたように、分別の利益は保証人が当然に有する権利です。債権者から全額の支払いを求められた場合、「分別の利益があるため、自分の負担分は債務総額の〇分の1である」と伝えることで主張できます。
ただし、債権者が理解しない場合は、専門家(弁護士・司法書士)に相談するとよいでしょう。書面で分別の利益を主張することで、より確実に権利を守ることができます。
原則として増えません。各保証人は、保証人の数で割った金額のみを負担する義務があり、一部の保証人が支払い不能になっても、他の保証人の負担割合は自動的には増加しません。
ただし、債権者が裁判所に訴えを提起し、一部の保証人が無資力(支払い能力がないこと)であることが証明された場合には、状況が変わる可能性があります。このような場合は専門家に相談することをおすすめします。
保証人と連帯保証人が混在している場合、保証人のみが分別の利益を主張できます。例えば、主債務者の借金600万円に対して保証人1名と連帯保証人1名がいる場合、保証人の負担額は300万円ですが、連帯保証人は600万円全額の支払い義務を負います。
債権者は連帯保証人に全額を請求することができるので、通常はまず連帯保証人に請求することが多いでしょう。連帯保証人が支払った場合、保証人の支払い義務も消滅します。
可能性はあります。札幌高裁の判決では、分別の利益を超えて支払った金額は債権者の不当利得として返還請求できると認められました。ただし、返還請求できる期間には制限(消滅時効)があるため、早めに専門家に相談することをおすすめします。
特に日本学生支援機構の奨学金返済については、判決を受けて返金手続きが整備されていますので、過去に保証人として全額を返済した方は問い合わせてみるとよいでしょう。
まとめ
分別の利益は、複数の保証人がいる場合に、各保証人が債務総額を保証人の人数で割った金額だけを負担すればよいという重要な権利です。この権利は民法に明確に規定されており、保証人は特別な手続きなく当然に有しています。
ただし、連帯保証人や連帯債務者には分別の利益は認められていません。連帯保証人は主債務者と同等の返済義務を負い、債権者は連帯保証人に債務の全額を請求することができます。保証人になる際には、「保証人」と「連帯保証人」の違いを理解し、自分がどちらの立場になるのかを確認することが非常に重要です。
2022年の札幌高裁判決では、日本学生支援機構が奨学金の保証人に全額返済を求めていた件について、分別の利益を超えた支払いは不当利得にあたるとして、返還を命じました。この判決により、分別の利益は保証人が当然に有する権利であることが改めて確認されました。
借金の保証人になることは大きなリスクを伴います。もし保証人として返済を求められている場合や、保証人になるよう依頼された場合は、自分の権利や責任範囲について正確に理解し、必要に応じて杉山事務所にご相談ください。専門的な知識を持った司法書士が、ご相談者様の状況に合わせた適切なアドバイスを提供いたします。
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