清算価値保障の原則(せいさんかちほしょうのげんそく)とは?
清算価値保障の原則とは、民事再生や会社更生など再建型の倒産手続において、債権者に対して破産手続による配当率(清算配当率)以上の配当を保障しなければならないという法的原則です。
この原則は、債務者の再生を可能にしながらも、債権者の利益を適切に保護するための基本的な考え方となっています。債務整理を検討されている方にとって、この原則の理解は重要な知識となります。
清算価値保障の原則の基本概念
定義 | 再建型倒産手続において、債権者が破産手続の場合に受け取れる配当額以上の支払いを保障する原則 |
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適用範囲 | 民事再生手続、会社更生手続など再建を目的とした法的整理手続 |
法的根拠 | 民事再生法第174条第2項第4号、会社更生法第199条第2項第2号など |
清算価値保障の原則は、再建型手続と清算型手続(破産)の橋渡しとなる重要な概念です。この原則があることで、債権者は最低でも破産した場合と同等の回収が保障されます。
清算価値保障の原則が持つ重要性
債権者保護 | 債権者が再建手続によって破産時よりも不利な立場に置かれないことを保証 |
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再生計画の正当性 | 債務者の再生計画が公平かつ妥当であることを担保する基準となる |
裁判所の判断基準 | 裁判所が再生計画を認可するかどうかの重要な判断材料になる |
この原則は債権者と債務者の利益バランスを取るための重要な仕組みです。債権者には最低限の利益を保障しつつ、債務者には再建の機会を与えるという両者にとって意義のある制度となっています。
清算価値の算定方法
算定基準時 | 原則として再生手続開始決定時(財産評定の基準時) |
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算定対象 | 債務者が所有する全財産(不動産、動産、売掛金、有価証券など) |
評価方法 | 各財産を清算(換価)した場合の価値を評価(強制売却価額等) |
清算価値の算定では、債務者の財産を破産手続で処分した場合にいくらになるかを評価します。この際、通常の売却価格ではなく、強制売却や早期換価を前提とした価格が用いられることが一般的です。
清算価値の計算式は以下のようになります。
- 債務者の全財産の換価見込額を算出
- 財団債権・優先債権の金額を差し引く
- 残額を一般債権者への配当可能額とする
- 配当可能額÷一般債権総額で清算配当率を算出
この計算式に基づいて算出された清算配当率以上の返済を再生計画で提案する必要があります。専門的な評価が必要なため、多くの場合、弁護士や司法書士などの専門家の支援を受けることをおすすめします。
再生計画との関係
計画内容の要件 | すべての債権者に対して清算配当率以上の返済を提案する必要がある |
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債権者の同意 | 債権者多数の賛成があっても、この原則を満たさない計画は認可されない |
計画不認可の理由 | 清算価値保障原則を満たさない計画は裁判所により不認可となる |
再生計画を立案する際は、債務者は清算価値保障原則を満たすことが必須条件となります。この原則を満たさない計画は、たとえ多くの債権者が賛成したとしても、裁判所によって認可されないことがあります。
適用場面と実務上の例
個人再生の場合 |
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企業の民事再生 |
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会社更生の場合 |
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清算価値保障原則は様々な債務整理手続で適用されます。特に資産を多く持つ債務者の場合、この原則が再生計画の内容に大きな影響を与えることがあります。
清算価値保障原則の課題
資産評価の難しさ | 特殊な資産や事業価値の正確な評価が困難な場合がある |
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再生の障害となる可能性 | 清算価値が高い場合、再生計画の策定が困難になることがある |
時間経過による変動 | 手続の進行に伴う資産価値の変動への対応が課題となる |
清算価値の正確な評価は実務上難しい課題です。特に事業継続価値や知的財産権などの評価は専門的判断が必要となります。また、清算価値が高すぎると、債務者が返済計画を立てられない場合もあります。
債務者がとるべき対応
適切な資産評価 | 専門家の協力を得て正確かつ適切な資産評価を行う |
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再生計画の工夫 | 清算価値を上回る返済が可能な実現性の高い計画を立案する |
債権者との交渉 | 計画の妥当性や将来の事業性について債権者に丁寧に説明する |
債務者は専門家の支援を受けながら、適切な資産評価と実現可能な再生計画の策定を行うことが重要です。清算価値保障原則を満たしつつ、将来の事業継続も可能にする計画づくりには経験豊富な専門家のサポートが不可欠です。
よくある質問
原則として、清算価値保障原則を満たさない再生計画は裁判所によって認可されません。これは債権者保護のための基本原則だからです。
例外的に、すべての債権者が同意した場合など特殊なケースでは認められる可能性もありますが、通常は清算価値を上回る返済計画の策定が必要不可欠です。
清算価値は、再生手続開始決定時を基準として、債務者の全財産を清算(換価)した場合に得られる価値から算定します。
具体的には、不動産、動産、売掛金などの資産の換価見込額から、優先債権や手続費用を控除した金額を一般債権者への配当可能額として計算します。
この際、不動産は強制売却価額、在庫品は早期売却を前提とした価額など、清算を想定した評価額を用います。専門家による財産評定が重要です。
清算価値の算定においては、事業継続による将来の収益は原則として含まれません。清算価値は「清算時点での換価価値」を基準とするためです。
ただし、事業継続による将来の収益見込みは、再生計画における返済原資として考慮されます。
事業継続により清算価値を上回る返済を行うことで清算価値保障原則を満たすことができ、これが再建型倒産手続の重要な特徴となっています。
はい、個人再生においても清算価値保障原則は適用されます。個人再生では「最低弁済額」という形で具体化されています。
小規模個人再生や給与所得者等再生では、債権者に対して「清算価値・100万円・債権総額の5分の1」のいずれか大きい金額以上を弁済することが求められます。
これは清算価値保障原則に基づく規定であり、債権者保護と債務者の再生のバランスを図るものです。
まとめ
清算価値保障の原則は、再建型の債務整理手続において、債権者と債務者の利益バランスを取るための重要な法的原則です。この原則により、債権者は少なくとも破産手続と同等の回収が保障される一方、債務者には事業や生活の再建機会が与えられます。
清算価値の算定は、債務者の財産を適切に評価し、破産した場合の配当率を計算することで行われます。再生計画ではこの清算配当率以上の返済を提案する必要があり、この条件を満たさない計画は原則として裁判所に認可されません。
債務整理を検討されている方は、この原則を理解した上で、適切な資産評価と実現可能な再生計画の策定を行うことが重要です。特に資産を多く持つ方の場合、清算価値保障原則が再生計画の内容に大きな影響を与えることがあります。
債務整理は専門的な知識と経験が必要な手続です。清算価値の正確な評価や適切な再生計画の策定には、債務整理に精通した専門家のサポートを受けることをおすすめします。杉山事務所では債務整理に関する様々なご相談に対応しておりますので、お気軽に無料相談をご利用ください。
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