保全(ほぜん)とは?

保全とは、債権者の権利を守るために、裁判所が債務者の財産の処分を一時的に禁止する法的措置です。債務整理や訴訟手続きにおいて、債権回収の実効性を確保するために重要な役割を果たします。

保全措置が取られると、債務者の財産処分が制限されるため、債務問題を抱えている方は早めの対応が必要となります。

保全の基本概念

定義 債務者の財産処分を防ぐための裁判所による暫定的な法的措置
目的 債権者の権利保護と将来の強制執行の実効性を確保すること
申立人 主に債権者(権利を保全したい当事者)
決定機関 地方裁判所または簡易裁判所

保全は債権者が債務者から確実に債権を回収するための予防的な措置です。裁判の本案判決が出るまでの間、債務者が財産を処分してしまうことを防ぐ役割があります。

保全措置の種類

仮差押え 金銭債権を保全するため、債務者の財産を差し押さえて処分を禁止する措置
仮処分 金銭以外の債権について、現状を維持したり、仮の地位を定める措置
保全管理 不動産や事業などの財産の管理を第三者(管理人)に委ねる措置
保全処分 特定の行為を禁止したり、一定の行為を命じるなどの措置

これらの保全措置は、債権の種類や状況によって適切なものが選択されます。特に、債務整理との関連では仮差押えが多く見られます。

保全の手続きの流れ

  1. 債権者による申立て:債権者が保全の必要性を示す書類を添えて裁判所に申立てを行います
  2. 裁判所の審査:裁判所が申立ての妥当性を審査します(通常、債務者に知らせずに行われます)
  3. 保全決定:裁判所が保全措置の可否を決定します
  4. 保全命令の執行:決定が出れば、執行官などにより保全措置が実行されます
  5. 債務者への通知:保全措置の執行後、債務者に通知されます

保全手続きは迅速に行われることが特徴で、債務者側に事前の通知がない場合がほとんどです。そのため、突然財産が差し押さえられるといった事態が生じることがあります。

保全措置の効果

  • 債務者の財産処分が法的に制限される
  • 対象となった預金口座や不動産などが凍結される
  • 債権者の権利が一時的に保護される
  • 将来の強制執行の実効性が確保される
  • 債務者に対して返済や和解への心理的プレッシャーを与える

保全措置が取られると、対象となった財産は自由に処分できなくなります。これにより債務者の経済活動に大きな制約がかかることがあります。

債務整理と保全の関係

任意整理 任意整理中でも債権者が保全措置を取ることが可能です。交渉前に保全措置を受けるリスクがあるため、早期の相談が重要です
個人再生 個人再生の申立てにより、保全処分の効力が停止される場合があります。また、裁判所が積極的に保全処分を命じることもあります
自己破産 破産申立てにより、既存の保全措置の効力は原則として停止します。また、裁判所が破産財団を保全するための処分を行うことがあります

債務整理を検討している段階で保全措置を受けると、手続きが複雑になる場合があります。一方で、法的な債務整理を申し立てることで保全措置から保護されることもあります。

保全措置を受けた場合の対応

専門家への相談 保全措置に関する通知を受けたら、すぐに司法書士などの専門家に相談しましょう
債権者との交渉 保全措置の解除や範囲縮小のため、債権者と直接交渉することも一つの方法です
異議申立て 保全措置が不当だと考える場合は、裁判所に異議を申し立てることができます
債務整理の検討 状況によっては、個人再生や自己破産などの法的債務整理を検討することで解決できる場合があります

保全措置を受けた場合は、冷静に状況を把握し、専門家のアドバイスを受けながら適切な対応を取ることが重要です。放置すると状況が悪化することがあります。

保全に関する注意点

不当な保全への対応 根拠のない保全申立ては損害賠償の対象となる可能性があります。不当な保全を受けた場合は異議申立てを検討しましょう
担保提供の必要性 保全措置の申立てには通常、担保の提供が必要です。これは保全が不当だった場合の損害賠償のためのものです
時間的制約 保全措置は一時的なものであり、債権者は一定期間内に本案訴訟を提起する必要があります
生活への影響 預金口座が差し押さえられると日常生活に支障が出ることがあります。差押禁止財産の申立てを検討しましょう

保全措置は債権者にとって有効な手段ですが、債務者の生活や権利にも配慮した制度設計がなされています。自分の権利を守るための対抗手段を知っておくことが大切です。

よくある質問

仮差押えを受けた場合は、まず通知書の内容を確認し、対応期限や債権額を把握しましょう。早急に司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

仮差押えが不当である場合は異議申立てが可能です。また、差押えの範囲が生活に支障をきたす場合は、差押禁止財産の申立てを検討できます。

状況に応じて任意整理や個人再生、自己破産といった債務整理手続きを検討することも重要な選択肢となります。

仮差押えなどの保全措置が預金口座に対して行われた場合、対象となった口座の使用は基本的に制限されます。差し押さえられた時点での残高が凍結され、その後の入金分も対象となる可能性があります。

ただし、給与の一部など差押禁止財産に該当する資金については、申立てにより保護される場合があります。また、保全措置の対象となっていない別の口座は通常通り使用できます。

生活に必要な資金が差し押さえられた場合は、裁判所に対して差押禁止債権の範囲変更を申し立てることも検討しましょう。

債務整理の種類によって対応が異なります。自己破産や個人再生を申し立てた場合、原則として保全命令の効力は停止します(民事再生法第39条、破産法第42条など)。

ただし、任意整理の場合は自動的には解除されないため、債権者との交渉により保全措置の解除を求める必要があります。債権者が任意整理に応じれば、交渉の一環として保全措置が解除されることもあります。

債務整理を検討する際は、既存の保全措置への対応も含めて杉山事務所にご相談ください。

仮差押えは、将来の強制執行を確保するための暫定的な措置で、債務名義(確定判決など)がなくても申し立てることができます。財産を凍結するだけで、債権者への配当は行われません。

一方、差押えは債務名義に基づいて行われる強制執行の一種で、差し押さえた財産を換価して債権者への配当が行われます。本執行と呼ばれる最終的な債権回収手段です。

簡単に言えば、仮差押えは「とりあえず財産を押さえておく」措置、差押えは「実際に回収する」ための手続きという違いがあります。

まとめ

保全とは、債権者の権利を守るために裁判所が債務者の財産処分を一時的に禁止する法的措置です。仮差押えや仮処分などの種類があり、主に債権回収の実効性を確保するために用いられます。

保全措置を受けると、対象となった財産の処分が制限され、日常生活にも影響が出る可能性があります。債務整理との関係では、法的整理の申立てにより保全措置の効力が停止する場合がある一方、任意整理では保全措置を受けるリスクも存在します。

保全措置を受けた場合は、専門家への相談、債権者との交渉、異議申立て、債務整理の検討など、状況に応じた適切な対応が重要です。また、保全の不当性や生活への影響を考慮した法的保護の仕組みもあります。

債務問題でお悩みの方や保全措置を受けた方は、早期に専門家に相談することで、最適な解決策を見つけることができます。杉山事務所では、保全措置に関する相談も含め、債務整理全般のサポートを行っていますので、お気軽にご相談ください。

債務整理用語集一覧に戻る

お気軽に無料相談をご利用ください。

page top